院長日記

第21話 手掌(手のひら)の多汗症について


「手に汗握る」、と言うように、手の平は元来発汗を起こし易い部位ですが、これが過剰になる(玉のような汗をかく、汗が湧き出る等)と大きな悩みになります。こういった症状の方がどれほどいるのかと言うと、信用のできる正確な数字は見当たらないのですが、恐らく数百人に一人、と言ったところだと思います。腋窩(ワキ)の多汗症については、手術療法がほぼ確立されていますが、手の平となると、かなりやっかい、と言えます。
胸腔鏡下両側胸部交感神経遮断術と呼ばれる治療法が唯一なのですが、これは、ワキを2cm程切開して、内視鏡と電気メスを挿入し、交感神経幹を第3~第5肋骨のレベルで遮断する、と言うものです。手の平の発汗は手術直後より見事に止まります。また、日帰り、あるいは一泊の入院で行えますし、傷跡も小さく目立ちませんので、非常に優れた手術と言えなくもありません。それでは何故やっかいなのか、と言う事ですが、外科的な手術の合併症とは別に、実は非常に高い確率で、代償性発汗と呼ばれる症状が出現します。つまり、手の平やワキの発汗は改善したが、その分逆に、躰幹や足、背中、足の裏などの発汗が増えた、と言った具合です。これでは、悩みの種が別に増えただけ、と言う事になりかねません。そこで、これらの確率を減らそうと、交感神経を完全に遮断せず、簡単に言えば、ある程度傷つける程度にしておく、と言った手法が取られたりします。ただ、神経はほとんど分化の見られない、俗っぽく言えばかなり下等な組織ですから、非常に再発しやすくもあります。そのため、数カ月から数年で、発汗が元に戻る可能性が十分考えられます。そのため、手術にあたっては、以上の事を十分踏まえて、検討していただきたいと思います。
もう一つ、最近では、ボツリヌストキシン(A型)を利用した手の平の多汗症の治療が広まってきました。非常に簡便な方法ですし、今後、上記手術療法との比較等、評価されてくるであろうと思われます。