院長日記

第61話 手術を途中で中断せざるを得なかった症例


以前他の施設で受けられた施術で、何らかのトラブルが生じていて困っている方を相変わらず多く見受けます。
美容外科医を20数年も続けていると、どのような施術が行われて、何が原因でそのようなトラブルが発生して、どのような対処をすればよいのか、大抵は判断がつくものです。
それ故、治療プランが外れる経験はまずないのですが、本日、タイトルにあるように、ご本人との打ち合わせどおりに治療を完遂できなかった症例を経験しました。
20数年前に豊胸手術を受けられている方で、胸が堅くなっていて困っているとのご相談でした。
診察してみると、右側の胸が岩のように堅く突き出ているような状態で、左側も少し程度は軽いものの、同じような状態でした。この時期に挿入している人工乳腺は、よほどいかがわしい施設(医者)でないかぎり、恐らくダウコーニング社(アメリカ)のシリコンバッグのはずです。ワキの手術痕は、何故かワキのシワとは垂直の、開き気味に治癒したと思われる7~8cmのもので、挿入場所は皮下としか思えない有様でした。
ご本人の記憶では、手術時に乳腺を除去するので、今後乳がんの心配はいらないから、と説明されたとの事でした。
どのような手術なのか全く理解に苦しむものでしたが、このような状態に至った、考えうる原因を説明させていただきました。
シリコンバッグを取り出さなければいけないのは明白で、ご本人のご希望は、再度豊胸術を希望されておられたので、バッグの取り出しはまず問題なく行える事、再度挿入するバッグの挿入場所は、取り出した時点で判断せざるを得ない事、をお伝えし、バッグのサイズ等も決定した上で、本日の手術になりました。
相当酷い状態の右側から手術を始めたのですが、乳輪縁に沿って4cmほど切開すると、明らかに皮下の組織の色調がおかしく、手術を進めると、突如タール状の液体が噴出し、その後、真茶色に変色したシリコンバッグと、異様な臭いと色調の石灰化した皮膜を取り出しました。取り出したバッグの下方には、壊死を起こして相当経過したと思われる乳腺の残骸が見られ、これも全て取り出しました。
ここまで酷い状態(ちょっとした感染でも起こせば、敗血症など重篤な疾患の可能性も十分考えられ、皮膚の壊死も時間の問題)であるとは、術前には判らず少し戸惑いましたが、その後、何とか大胸筋下で再手術を試みたのですが、相当困難である事と、術中、術後に起こりうる事象を幾つも考えながら、新しいバッグを挿入してよいものか相当悩みました(術後、何とか形のよいバストにして差し上げる約束でしたので)が、やはり手術はここで中断する事にして、切開部を全て縫合して終了しました。
仕方なく、最善と判断したものではあっても、術前の約束どおりの結果を残せなかった事に、今日は反省する日になりました(状態さえ落ち着けば、ご本人のご希望どおりには何とかするつもりですが)。